木の道の匠の よろ 086 ★★★
原文 読み 意味 帚木06章04@源氏物語
木の道の匠のよろづの物を心にまかせて作り出だすも 臨時のもてあそび物の その物と跡も定まらぬは そばつきさればみたるも げにかうもしつべかりけりと 時につけつつさまを変へて 今めかしきに目移りてをかしきもあり 大事として まことにうるはしき人の調度の飾りとする 定まれるやうある物を難なくし出づることなむ なほまことの物の上手は さまことに見え分かれはべる
き/の/みち/の/たくみ/の/よろづ/の/もの/を/こころ/に/まかせ/て/つくり-いだす/も りんじ/の/もて-あそび/もの/の その/もの/と/あと/も/さだまら/ぬ/は そばつき/さればみ/たる/も げに/かう/も/し/つ/べかり/けり/と とき/に/つけ/つつ/さま/を/かへ/て いまめかしき/に/め/うつり/て/をかしき/も/あり だいじ/と/し/て まこと/に/うるはしき/ひと/の/てうど/の/かざり/と/する さだまれ/る/やう/ある/もの/を/なん/なく/し-いづる/こと/なむ なほ/まこと/の/もの-の-じやうず/は さま/こと/に/みエ/わか/れ/はべる
(左馬頭)指物師の匠が、様々な物を心にまかせて作り出す場合でも、一回切りの賞玩物でこうだと作り方に決まりがない時には、一見ふざけた印象にもなるものでも、なるほどこんな風にも仕上がるものかと、時々に合わせて趣向を変え、今風の感覚に目移りして興味を引くこともあるが、大事の品として誠に厳格な人が調度の飾りにする、形式の定まった品物を欠陥なく仕上げる場合こそ、やはり真に評価の定まった名人では、仕上がりに歴然と差が出るものです。
文構造&係り受け
主語述語と大構造 をかしきもあり:三次|なむ…は…見え分かれはべる:三次
〈木の道の匠〉のよろづの物を心にまかせて作り出だすも 臨時の 〈もてあそび物の その物と跡も定まらぬ〉 は そばつきさればみたるも @ げにかうもしつべかりけり @と 時につけつつさまを変へて 今めかしきに目移りてをかしきもあり | 大事として まことにうるはしき人の調度の飾りとする 定まれるやうある物を難なくし出づる〈こと〉なむ なほまことの物の上手は さまことに見え分かれはべる
助詞と係り受け
木の道の匠のよろづの物を心にまかせて作り出だすも 臨時のもてあそび物の その物と跡も定まらぬは そばつきさればみたるも げにかうもしつべかりけりと 時につけつつさまを変へて 今めかしきに目移りてをかしきもあり 大事として まことにうるはしき人の調度の飾りとする 定まれるやうある物を難なくし出づることなむ なほまことの物の上手は さまことに見え分かれはべる
「(木の道の)匠の…作り出だす」:AのB連体形(「の」は主格)
「心にまかせて作り出だすも」:「も」は接続助詞で逆接。基準なく心のままに作った場合であっても、「をかしきもあり」
「(臨時の)もてあそび物のその物と跡も定まらぬ」:AのB連体形(「の」は同格)
「(臨時の)もてあそび物のその物と跡も定まらぬは」→「(時につけつつさまを変へて今めかしきに目移りて)をかしきもあり」:「さまを変へて」「目移りて」(並列)
「臨時の…跡も定まらぬ」「大事として…し出づる(ことなむ)」:対の表現
「そばつきさればみたるも」:「も」は接続助詞で逆接と考える。一文の前半の前半、ここで下げておいて前半の後半「をかしきもあり」で持ち上げる。
「大事として」「定まれる」(並列)→「やうある物」
「うるはしき人の調度の飾りとする」:AのB連体形(「の」は主格)
「うるはしき人の調度の飾りとする」+「定まれるやうある」→「物」
古語探訪;失われた意味を求めて
よろづの物を心にまかせて作り出だすも 02-086
どんなものであれ心任せに作り出す場合でもの意味で、以下二つのケースに分けて論をすすめる。一つは空想の産物、今ひとつは実世界にモデルを見いだし得る作品。心にまかせは母集合、空想の産物とモデルを探せる作品はその部分集合である。
うるはしき人の調度の飾りとする 02-086
「うるはしき人(注文主の貴族)の調度を飾るにふさわしい(作品)」。「うるはし」は、きちんとしたの意味で、ここはこんな感じ、ここはこうなどと、注文が細かいのだろう。「うるはしき人」は職人とする解釈もあるが、いきなり「調度の飾りとする」が出るのは不自然である。また、「うるはしき人」が職人なら、その動作は「難なくし出づる」と考えなければならない。しかし、「難なくし出づる」の主体は倒置された「まことの物の上手」であって、「うるはしき人」を主語に立てることはできない。さらにその読みでは何度も繰り返している交差禁止に觝触する。「大事としてまことに」が「定まれるやうある物」に係るので、その間の要素は「定まれるやうある物」より後ろに係ることも主述となることもできないから、「うるはしき人」は職人ではなく、「うるはしき人の調度(の飾りとする)」と考えるしかないのだ。
木の道の匠 02-086
木地師や指物師や宮大工などをいうのだろう。
跡も定まらぬ 02-086
こうすべき型もなくの意味。
そばつき 02-086
はたからちょっと見た感じでは。一見。
さればみたる 02-086
しゃれている、風流っ気がある。
げに 02-086
(しげしげと見てみると)なるほど。「そばつき」と対比される。
かうもしつべかりけり 02-086
こんな風にもすることができるのだなあ。
時につけつつ 02-086
場合に応じて。
いまめかしき 02-086
今風。
定まれるやうある物 02-086
「跡も定まらぬ」の反対で、定まった型がある品物。あるいは決まった用途のある物。
まことの物の上手は 02-086
真の評価の定まった名人は。物は動くことがない状態の形容。
ことに 02-086
違って、あるいは特別に。
耳からの情報伝達;立ち現れる〈モノ〉
語りの対象:心に任せて作る作品/決まった基準のある作品
中断型:A→B→C→D→E|F→G:A→B→C→D→E、F→G
《木の道の匠のよろづの物を心にまかせて作り出だすも》A
指物師の匠が、様々な物を心にまかせて作り出す場合でも、
《臨時のもてあそび物の その物と跡も定まらぬは》B
一回切りの賞玩物でこうだと作り方に決まりがない時には、
《そばつきさればみたるも・げにかうもしつべかりけりと》C・D
一見ふざけた印象にもなるものでも、なるほどこんな風にも仕上がるものかと、
《時につけつつさまを変へて 今めかしきに目移りてをかしきもあり》E
時々に合わせて趣向を変え、今風の感覚に目移りして興味を引くこともあるが、
《大事としてまことに うるはしき人の調度の飾りとする 定まれるやうある物を難なくし出づることなむ》F
大事の品として誠に厳格な人が調度の飾りにする、形式の定まった品物を欠陥なく仕上げる場合こそ、
《なほまことの物の上手は さまことに見え分かれはべる》G
やはり真に評価の定まった名人では、仕上がりに歴然と差が出るものです。