一の皇子は右大臣の 009
原文 読み 意味 桐壺02章03@源氏物語
一の皇子は 右大臣の女御の御腹にて寄せ重く 疑ひなき儲の君と世にもてかしづききこゆれど この御にほひには並びたまふべくもあらざりければ おほかたのやむごとなき御思ひにて この君をば私物に思ほしかしづきたまふこと限りなし
いち-の-みこ/は うだいじん-の-にようご/の/おほむ-はら/にて/よせ/おもく うたがひ/なき/まうけ-の-きみ/と/よ/に/もて-かしづき/きこゆれ/ど この/おほむ-にほひ/に/は/ならび/たまふ/べく/も/あら/ざり/けれ/ば おほかた/の/やむごとなき/おほむ-おもひ/にて この/きみ/をば/わたくしもの/に/おもほし/かしづき/たまふ/こと/かぎり/なし
第一皇子は右大臣家の娘である女御がお産みの御子で世の信頼が厚く、紛がうことなき次期皇太子だと、世間は大切に慈しみ申し上げているけれど、若宮が放つ魅力には及ぶべくもないことなので、第一皇子は公(おおやけ)として相応に尊ばれたのに対して、この宮は秘蔵子として慈しみお育てになるご愛情には限りがございませんでした。
文構造&係り受け
主語述語と大構造 をば…に…こと限りなし:四次
〈一の皇子〉は右大臣の女御の御腹にて寄せ重く @ 疑ひなき儲の君 @と世にもてかしづききこゆれど この御にほひには並びたまふべくもあらざりければ おほかたのやむごとなき御思ひにて 〈[帝]〉この君をば私物に思ほしかしづきたまふこと限りなし
助詞と係り受け
一の皇子は 右大臣の女御の御腹にて寄せ重く 〈疑ひなき儲の君〉と世にもてかしづききこゆれど この御にほひには並びたまふべくもあらざりければ おほかたのやむごとなき御思ひにて この君をば私物に思ほしかしづきたまふこと限りなし
- 一の皇子は→右大臣の女御の御腹にて(一の皇子に対する事実)・おほかたのやむごとなき御思ひにて/並列。「にて」の繰り返しが並列の目印
- 右大臣の女御の御腹にて/理由→寄せ重く・〈疑ひなき儲の君〉(心内語)と世にもてかしづききこゆ(一の皇子に対する世間評価)
- 世にもてかしづききこゆれど→この御にほひには並びたまふべくもあらざりけり(光の君との事実比較)+ば→おほかたのやむごとなき御思ひなり(一の皇子に対する帝の内面評価)+て/理由→この君をば私物に思ほしかしづきたまふこと限りなし(光の君に対する帝の内面評価)
一の皇子は右大臣の女御の御腹にて寄せ重く 疑ひなき儲の君と世にもてかしづききこゆれど この御にほひには並びたまふべくもあらざりければ おほかたのやむごとなき御思ひにて この君をば私物に思ほしかしづきたまふこと限りなし
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助詞・助動詞の識別:に べく ざり けれ に
- に:断定・なり・連用形
- べく:当然・べし・連用形
- ざり:打消・ず・連用形
- けれ:喚起・けり・已然形
- に:断定・なり・連用形
敬語の区別:御 御 たまふ 御 思ほす たまふ
一の皇子は右大臣の女御の御腹にて 寄せ重く疑ひなき儲の君と世にもてかしづききこゆれど この御にほひには並びたまふべくもあらざりければ おほかたのやむごとなき御思ひにて この君をば私物に思ほしかしづきたまふこと限りなし
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪;失われた意味を求めて
御にほひ 01-009:全人の魅力
周囲に発散させる魅力。気品や匂い肌つやの輝きなど。これに後年は声色・話しぶり・言葉遣い・教養などが加わる。
私物 01-009:公の中の私
帝の息子たちは次期皇太子候補であり、国家の枢要を担う公的な存在である、帝であっても私物化できる対象ではない。よって、「私物(わたくしもの)」という表現には「私物(しぶつ)」とは異なる意味がなければならない。「私」「公」と対をなす。
一、「公」(社会的評価):「一の皇子」>「光源氏」
二、「私」(帝の個人的評価):「一の皇子」→「光源氏」 つまり、一の皇子は公的な存在とするが、光源氏は公的存在として一の皇子と対立させるのではなく、私人として帝の内面において重視するほどの意味であろう。
寄せ 01-009
気持ちを寄せる対象で、世間からの信頼、期待。
疑ひなき 01-009
他に取って変わられる恐れがないこと。
儲の君 01-009
次期帝となる人。すなわち東宮、皇太子。
世に 01-009
非常にの意味でも使用されるが、ここでは世間ではの意味を含む。「もてかしづききこゆれ」の主体は世間。帝であれば尊敬語がつく。
おほかたの 01-009
この場合「私物」の「私」に対立する。公事、世間的に。
やむごとなき 01-009
やむことがない。
御思ひ 01-009
愛情。
耳からの情報伝達;立ち現れる〈モノ〉
語りの対象:一の皇子/世間/この君(光の君)/帝
中断型・分配型:A→B→C→D*E:A→B→C→D、*C→E
《一の皇子は右大臣の女御の御腹にて・寄せ重く疑ひなき儲の君と 世にもてかしづききこゆれど》A・B
第一皇子は右大臣家の娘である女御がお産みの御子で世の信頼が厚く、紛がうことなき次期皇太子だと、世間は大切に慈しみ申し上げているけれど、
《この御にほひには並びたまふべくもあらざりければ・おほかたのやむごとなき御思ひにて》C・D
若宮が放つ魅力には及ぶべくもないことなので、第一皇子は公(おおやけ)として相応に尊ばれたのに対して、
《この君をば私物に思ほしかしづきたまふこと限りなし》E
この宮は秘蔵子として慈しみお育てになるご愛情には限りがございませんでした。