ほど経ばすこしうち 061
原文 読み 意味 桐壺05章12@源氏物語
ほど経ばすこしうち紛るることもやと 待ち過ぐす月日に添へていと忍びがたきは わりなきわざになむ いはけなき人をいかにと思ひやりつつ もろともに育まぬおぼつかなさを 今はなほ昔のかたみになずらへてものしたまへなど こまやかに書かせたまへり
ほど/へ/ば/すこし/うち-まぎるる/こと/も/や/と まち/すぐす/つきひ/に/そへ/て/いと/しのびがたき/は わりなき/わざ/に/なむ いはけなき/ひと/を/いかに/と/おもひやり/つつ もろともに/はぐくま/ぬ/おぼつかなさ/を いま/は/なほ/むかし/の/かたみ/に/なずらへ/て/ものし/たまへ/など こまやか/に/かか/せ/たまへ/り
時が経てば少しは心の紛れることもあろうかと、待ち過ごす月日と共に忍び難たさが増すのは、割り切れぬ道理であるよ。年端のゆかぬお方はいかがかと思いをかけながら、ご一緒にお育てできない心もとなさといっては。今はこのわたくしを亡き人を思い出すよすがと見なしてお出でなさいなどと、細やかな心遣いでしたためていらっしゃる。
文構造&係り受け
主語述語と大構造 …書かせたまへり:五次
〈[帝]〉@ ほど経ばすこしうち紛るることもやと 待ち過ぐす〈月日に添へていと忍びがたき〉は わりなきわざになむ@ @いはけなき人をいかにと思ひやりつつ もろともに育まぬおぼつかなさを@ @今はなほ昔のかたみになずらへてものしたまへなど@ こまやかに書かせたまへり
助詞と係り受け
ほど経ばすこしうち紛るることもやと 待ち過ぐす月日に添へていと忍びがたきは わりなきわざになむ いはけなき人をいかにと思ひやりつつ もろともに育まぬおぼつかなさを 今はなほ昔のかたみになずらへてものしたまへなど こまやかに書かせたまへり
「ほど経ばすこしうち紛るることもやと 待ち過ぐす月日に添へていと忍びがたきは わりなきわざになむ」:「ほど経るままに せむ方なう悲しう思さるるに 御方がたの御宿直なども絶えてしたまはず ただ涙にひちて明かし暮らさせたまへば 見たてまつる人さへ 露けき秋なり/01-047」と呼応
ほど経ばすこしうち紛るることもやと 待ち過ぐす月日に添へていと忍びがたきは わりなきわざになむ いはけなき人をいかにと思ひやりつつ もろともに育まぬおぼつかなさを 今はなほ昔のかたみになずらへてものしたまへ などこまやかに書かせたまへり
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助詞・助動詞の識別:に ぬ せ り
- に:断定・なり・連用形
- ぬ:打消・ず・連体形
- せ:尊敬・す・連用形/「せたまふ」:最高敬語
- り:存続・り・終止形
敬語の区別:たまふ せたまふ
ほど経ばすこしうち紛るることも や と 待ち過ぐす月日に添へていと忍びがたきは わりなきわざに なむ いはけなき人をいかにと思ひやりつつ もろともに育まぬおぼつかなさを 今はなほ昔のかたみになずらへてものしたまへ などこまやかに書かせたまへり
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪;失われた意味を求めて
なずらへて 01-061
擬する。AをBになぞられる。自分(帝)を亡き娘を思い出すよすがと思って、との意味。帝には桐壺更衣と過ごした様々な思い出があるから、娘を思い出すよすがとなる。
わりなき 01-061
道理に合わない、理屈にあわない。時間の経過とともに、更衣を失った悲しみは紛れてゆくだろうと思われるのに、逆に耐えがたいことに対して。
わざ 01-061
隠れた神意が原義という。
いはけなき 01-061
年端のゆかない。
おぼつかなさ 01-061
離れているために、情報を得られないことから発生する気持ち。
かたみ 01-061
亡き人を思い出すよすが、手立て。
ものし 01-061
様々な動詞の代わりに使用する。ここでは、参内をすすめる、おぼめかし表現。
耳からの情報伝達;立ち現れる〈モノ〉
語りの対象:帝/光源氏/母君
分岐型・中断型:A<B<C|+D<E<F|+G|<H:A<B<C|+D<E<F|+G|<H
《ほど経ばすこしうち紛るることもやと》A
時が経てば少しは心の紛れることもあろうかと、
《待ち過ぐす月日に添へていと忍びがたきは・わりなきわざになむ》B・C
待ち過ごす月日と共に忍び難たさが増すのは、割り切れぬ道理であるよ。
《いはけなき人をいかにと思ひやりつつ・もろともに育まぬ》D・E
年端のゆかぬお方はいかがかと思いをかけながら、ご一緒にお育てできない
《おぼつかなさを》F
心もとなさといっては。
《今はなほ昔のかたみになずらへてものしたまへ》 G
今はこのわたくしを亡き人を思い出すよすがと見なしてお出でなさい、
《などこまやかに書かせたまへり》H
などと細やかな心遣いでしたためていらっしゃる。