暮れまどふ心の闇も 067
原文 読み 意味 桐壺06章03@源氏物語
暮れまどふ心の闇も堪へがたき 片端をだにはるくばかりに 聞こえまほしうはべるを 私にも心のどかにまかでたまへ
くれ-まどふ/こころ-の-やみ/も/たへ/がたき かたはし/を/だに/はるく/ばかり/に きこエ/まほしう/はべる/を わたくし/に/も/こころ/のどか/に/まかで/たまへ
エ:や行の「え」
子を失い暮れ惑う心の闇も耐えがたく、この先せめて出口が見えれば気も晴れましょうに。お話がしとう存じますから、私人の身でごゆるりとお越しください。
文構造&係り受け
主語述語と大構造 を…にも…まかでたまへ:三次
暮れまどふ 心の闇も堪へがたき 片端をだにはるくばかりに 聞こえまほしうはべるを 私にも心のどかにまかでたまへ
助詞と係り受け
暮れまどふ心の闇も堪へがたき 片端をだにはるくばかりに 聞こえまほしうはべるを 私にも心のどかにまかでたまへ
「暮れまどふ心の闇も堪へがたき」:連体中止法
暮れまどふ心の闇も堪へがたき 片端をだにはるくばかりに 聞こえまほしうはべるを 私にも心のどかにまかでたまへ
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助詞・助動詞の識別:まほしう
- まほしう:願望・まほし・連用・ウ音便
敬語の区別:聞こゆ はべり まかづ たまふ
暮れまどふ心の闇も堪へがたき 片端を だにはるくばかり に 聞こえまほしうはべるを 私に も心のどかにまかでたまへ
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪;失われた意味を求めて
暮れまどふ…はるくばかりに 01-067:返歌のないいにしへの人のつぶやき
五・七・五・七・七になっている。「母北の方なむいにしへの人のよしあるにて(母は家柄の古い教養豊かなお方で)/01-006」とあり、会話文に歌らしきものを挟み込むのであろう。そういうめんどくさい女官が紫式部の周りにいたのかもしれない。それはともかく、物語内で歌として認識されていないのは、返歌がないことからわかる。「闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに草も高くなり野分にいとど荒れたる心地して月影ばかりぞ八重葎にも障はらず差し入りたる/01-054」の形象化。更衣の母の生前死後で変わらないのは、母更衣の光源氏に対する愛護。月と更衣の重なりは「人よりはことなりしけはひ容貌の面影につと添ひて思さるる/01-052」にも見える。
片端 01-067:若宮の将来
素直な解釈は心の闇の片端となろうが、心の端は表現として不自然である。具体的イメージをつかまないと解釈したことにならない。子を失ったことで「子を思ふ道」がすっかり闇に覆われてしまった。来し方は子を失ったつらい過去があるばかりだから、今は闇の中を前に進むしかない状況。片端はそうした闇の迷路の出口。娘を失った過去は覆らないが、若宮という希望がこの闇を打ち払う希望になりうる。そうした将来の見通しについて命婦と語りたいのだ。つまるところ、若宮を帝に託す条件として、皇太子にするとの確約をとりつけられればベスト。それがかなわないでも、それなりの確証がほしいのである。そうしたことを命婦と相談したのだ。祖母にすれば一族の唯一の希望が若宮であり、いかにその価値を高め帝に託するかが生きる理由になっているのである。
暮れまどふ心の闇 01-067
「人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまどひぬるかな」(後撰集・雑一・藤原兼輔)による。
私にも 01-067
今日のような公的な使者ではなく、私人として気軽に尋ねてきてほしい。
耳からの情報伝達;立ち現れる〈モノ〉
語りの対象:母君/命婦
中断型:A|+(B→)C→D:A、*A→C→D、B→C
《暮れまどふ心の闇も堪へがたき・片端をだにはるくばかりに》A・B
子を失い暮れ惑う心の闇も耐えがたく、この先せめて出口が見えれば気も晴れましょうに。
《聞こえまほしうはべるを》C
お話がしとう存じますから、
《私にも心のどかにまかでたまへ》D
私人の身でごゆるりとお越しください。